食料品の消費税8%から1%へ、問われるのは「2年後」
減税の是非より、その先の設計。
この秋の臨時国会で最大の論点になる、食料品に対する消費税の減税。財源、2年後の扱い、そして政治日程という3つの角度から論点を整理します。減税そのものよりも、「2年後にどうするか」を今のうちに決められるかどうかが、財政と国民生活の分かれ目になります。
本動画のポイント
- 9月下旬の内閣改造を経て開かれる臨時国会では、食料品の消費税を8%から1%へ引き下げる議論が中心になります。
- 新聞各紙や多くの識者は財政悪化を理由に反対していますが、私は現実の国民生活を踏まえれば減税は必要だと考えます。
- 財源は1年で約5兆円、2年で約10兆円。インフレによる税収の上振れなどを考えれば、2年間の減税は十分に可能です。
- 減税が2年間とされるのは、給付付き税額控除の導入準備に2年ほどかかるためです。
- 税率を戻す2029年4月の前年、2028年夏に参議院選挙があり、これが「戻せなくなる」最大のリスクです。
- だからこそ、2年後に税率を戻して給付に切り替えることを、与野党の合意として早く固めておく必要があります。
01この秋の焦点は、食料品の消費税
9月下旬に内閣改造が行われ、その後、年末まで臨時国会が開かれる見通しです。そこで最大の議論になるのが、食料品に関する消費税の税率を8%から1%へ引き下げる減税です。おそらく、この秋の政策論議の大半をこのテーマが占めることになります。
動画では、この減税を三つの論点に分けて整理しました。第一に、なぜこれほど反対論が多いのか。第二に、財源は足りるのか。そして第三に、2年後に税率を本当に戻せるのか、です。最も重要で、いま議論すべきなのは三つ目だと私は考えています。
02なぜ、これほど反対論が多いのか
現在、ほぼすべての新聞が食料品の消費税減税に反対しています。評論家や政治家にも反対の声が少なくありません。理由はおおむね共通していて、日本はただでさえ借金が多く、毎年の財政赤字も大きい。そこで減税をすれば財政はさらに厳しくなり、金利が跳ね上がり、円安がいっそう進んで、かえって逆効果になるのではないか、というものです。
財政の観点から見れば、この指摘には理があります。ただし、これはあくまで財政の側から見た主張です。判断するには、もう一方の現実、つまり国民生活の側から見た景色も合わせて考える必要があります。
03それでも減税が必要だと考える理由
失われた30年のダメージで、日本は本当に貧しくなってしまいました。日本人の平均年収はおよそ478万円。今の為替レートで換算したアメリカの平均年収およそ1,100万円と比べれば、半分以下です。とりわけ地方では、平均年収300万円台以下の方が6割ほどを占めます。
そこにこれだけの物価高が重なれば、生活が厳しくなるのは当然です。この状況で物価高対策と中低所得者への支援を行わないという選択はありえません。財政の観点からは問題が多くても、現実の経済から見れば必要である。私はそう判断すべきだと考えます。そして、いますぐ実行できる中低所得者支援の手段が食料品に関する減税である以上は、やるべきです。
財政の観点で問題が多くても、現実の経済を考えれば、これは絶対に必要です。
04財源は、本当に足りないのか
反対派が必ず持ち出すのが財源の問題です。食料品の軽減税率を8%から1%にすれば、1年でおよそ5兆円、2年で10兆円かかります。それでも私は、結論として大丈夫だと考えています。
インフレが進み物価が上がるなかでは、税収も増えます。税収は今の見込みに比べて明らかに上振れするはずです。これに外為特会などの財源を加えれば、2年間の減税であれば金融市場を不安にさせずに実行できるはずで、財務省もそれくらいは織り込んでいるはずです。
もっとも、具体的な財源が固まるのは12月です。財務省自身が、それまでは明確にできないとしています。現段階でこれ以上詰めても答えは出ないというのが、財源問題の現実的な扱いです。
05「2年後に戻す」という前提と、給付付き税額控除
そもそも、なぜ減税は2年間なのか。高市総理がもともと考えていたのは、給付付き税額控除によって中低所得者の生活を支える仕組みです。これは、所得の低い方に対して所得に応じて給付や減税を行い、生活を楽にする手段です。ただし導入には2年ほどの準備が必要だと財務省が説明していたため、それまでのつなぎとして食料品の消費税を下げる、という組み立てになっています。
したがって理屈のうえでは、2年後に税率を戻すのは当然です。戻したその瞬間から給付付き税額控除(当初は給付のみ)が始まるのであれば、中低所得者は税率が戻ってもほぼ同じだけのメリットを給付という形で受けられます。その段階で対象から外れる高額所得者の負担は増えますが、国民の多くを占める中低所得層にとっては、基本的に問題は生じません。
ただし、これはあくまで理屈です。食料品の税率が1%から8%に上がることは、生活者の目には増税として映ります。8月に行われた各社の世論調査で、2年後に税率を戻すことに賛成より反対が多かったのは、当然の結果だといえます。
062028年夏の参議院選挙という壁
政治関係者のあいだでは、すでに「2年後に戻すのは難しいだろう」という声が強まっています。国民が増税を嫌うことに加えて、政治日程の問題があるからです。
仮に2027年4月から減税を始めれば、税率を戻すのは2029年4月。その前年、2028年の夏には参議院選挙があります。増税まで1年を切った時期に国政選挙を迎えれば、野党は当然この問題を突いてきます。減税した1%をそのままにして、その是非を問う形で衆議院解散に踏み切る、という展開すら語られ始めています。
しかし、減税したまま戻さず、下手をすれば恒久化するとなれば、財政への影響は小さくありません。金融市場が動揺し、金利上昇や一段の円安を招く可能性があります。いくら国政選挙があるとはいえ、この選択は賢明とはいえません。
では、戻せない場合にほかの手はあるのか。実は一つあります。食料品の税率を1%のままにして、消費税本体を10%から12%へ引き上げる方法です。これなら消費税の税収はほぼ行って来いとなり、事実上カバーできます。イギリスでは消費税の税率が20%である一方、食料品はゼロ税率です。格差が広がるなかで低所得者支援を続けるという観点からは、食料品を低く抑え、本体を少し上げるという組み合わせは理論的にはありえます。ただし、これも増税である以上、評判が悪くやりにくいのが実情です。
07いま必要なのは、与野党の合意
現実的な選択肢は、やはり2年後に1%へ下げた税率を戻し、その段階で給付をしっかり行うのだということを、いかに国民に伝えられるかに尽きます。
そのうえで重要なのが、決め方です。2年後に必ず戻すことを単に法律に書き込むだけ、あるいは与党だけで決めるとなれば、2028年の参議院選挙で必ず政争の格好の材料になります。そうなれば戻せなくなり、財政バランスが崩れ、金利も上がり、為替も円安が進みかねません。国民の生活も厳しくなります。
野党も減税や給付には賛成しています。であれば、この秋の臨時国会で減税の法案を審議する段階で、2年後に必ず戻し、給付に切り替えることを与野党の合意として確立できるかどうか。それを作れれば戻せますし、作れなければ戻せません。できれば今年のうちに合意を結ぶ。そのくらいのことを、いま頑張っておくべきだと私は考えています。
※税率や実施時期、制度の設計に関する記述は、動画収録時点(2026年8月)での説明に基づきます。今後の国会審議によって内容は変わり得ますので、実際のご判断にあたっては政府・関係機関が公表する最新の情報をご確認ください。
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岸 博幸慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授/経済評論家・コメンテーター