【米中間選挙】日本への影響を3つの論点|関税・AI規制・外交【岸博幸】
中間選挙で共和党が惨敗、それでも関税は続く|岸 博幸
動画2026.11.07
中間選挙で共和党が惨敗、それでも関税は続く
日本への影響を、3つの論点で整理します。
アメリカの中間選挙は、事前の予想を超える共和党の歴史的な惨敗で終わりました。では、この結果は日本に何をもたらすのか。関税、AI規制、そして外交という3つの論点から考えます。結論から言えば、関税は当面変わらず、株安は中期的には行き過ぎ、そして最も怖いのは外交です。
本動画のポイント
- 議会を民主党が制したとしても、大統領の拒否権があるため、トランプ関税は当面このまま続きます。
- AI規制も同じ理由で、連邦レベルでの成立は難しいと考えられます。
- 州レベルではデータセンター建設が止まる可能性がありますが、カナダへの移転という回避策があります。
- 足元の株安は中期的には行き過ぎで、日本の株式市場もどこかで盛り返すと見ています。
- 最も読みにくく怖いのがイラン問題。年内に大規模な攻撃が行われる可能性があります。
- 中間選挙直後、ロシアはJTのロシア事業を事実上接収しました。独裁者は足元を見てきます。
01予想を超えた、共和党の惨敗
アメリカの中間選挙は、ご承知のように共和党の歴史的な惨敗という結果で終わりました。私自身、事前の予想では下院では共和党が負けるものの、上院ではぎりぎり過半数を取れるかと見ていただけに、自分の不明を恥じています。もっとも、アメリカに数多くいる政治専門家のあいだでも、ここまでの大差がつくとは誰も予想していませんでした。
共和党と民主党がこれからどう変質していくかは、政策や政治の観点から非常に重要です。ただ、他国のことを心配しても仕方がありません。まずは、この結果が日本にどういう影響をもたらすのかを考えます。論点は3つあります。
02論点① トランプ関税はどうなるか
議会を民主党が制したことで、トランプ関税が下がるのではないかという声があります。関税は日本の対米輸出にも大きく影響します。しかし私は、トランプ氏の任期が残り2年となり、レームダック化してもなお、このまま続くと見ています。あまり期待しても仕方がありません。
理由は、政策決定の仕組みにあります。現在の関税は、ホワイトハウスが既存の法律の2つの条項を使ってかけているものです。つまり行政側が、法律の条項をもとに執行している。これを議会が止めようとすれば、その条項を廃止するか、新しい法律を作って関税を廃止・引き下げる必要があります。
問題は、議会がそういう法律を成立させても、大統領に拒否権があることです。
拒否権を覆すには議会の3分の2が必要ですが、民主党は上院で3分の2に達していません。したがって、関税は当面このまま続くと考えたほうがよいでしょう。
03論点② AI規制と、データセンターの壁
アメリカではシリコンバレーのAI企業がトランプ政権に忠誠を尽くしてきました。民主党がその報復としてAI規制を導入し、AIブームに支えられた経済や株価が総崩れになるのではないか ― そうした懸念から、中間選挙直後の数日でアメリカの株式市場は大幅に下落し、日本もつられて下がりました。
しかし私は、これがずっと続くとは思っていません。AI規制についても関税と同じ問題があるからです。民主党がAIの開発を規制する法律を作っても、トランプ大統領が拒否権を使えば成立しません。連邦レベルでの規制は難しいでしょう。
一方で注意が必要なのは、データセンターです。こちらは州レベルが権限を持っています。データセンターの一大集積地であるテキサス州でも民主党が勝利しました。データセンターは電力を大量に使って電気料金を押し上げ、水も大量に使うため、アメリカでは評判がよくありません。民主党が州レベルを制したところでは、建設が止まる可能性は十分にあります。
04それでも、心配しすぎなくてよい理由
ただし、これもあまり心配する必要はないと考えています。シリコンバレーの経営者は、はっきり言ってワシントンの人々よりよほど優秀だからです。
州レベルで規制が強まったらどうするか。簡単で、カナダに作ってしまえばよいのです。データセンターは熱を大量に発生させるため、もともと寒冷地のほうが適しています。カナダの寒い地域に作っても、光ファイバーで瞬時にデータを送れるので問題ありません。
そう考えると、州レベルの規制は確かにリスク要因ではありますが、致命的とまでは言えません。短期的には「AIは大変だ」と株価が下がり、景気への悪影響が懸念されていますが、中期的にはそこまで心配する必要はない。とすれば、日本の株式市場も今は下がりすぎで、どこかで盛り返すだろうというのが私の個人的な見方です。
05論点③ 最も怖いのは、イラン問題
3つ目が、実は一番難しいイラン問題、つまり外交です。これの影響は非常に怖いと見ています。
トランプ大統領は、格闘技好きであることからも分かるように、ヒーローを演じたい、マッチョでありたいという人です。したがって選挙の惨敗についても、自分以外に責任を転嫁し、自分は正しいことをやったと強弁したいはずです。すでにメディア批判など責任転嫁が始まっていますが、当然イランもその対象になり得ます。自分が戦争を仕掛けておきながら、イランのせいで負けたという理屈です。
加えて、自身のレガシーを残したいはずです。そうなると、イラン攻撃を強化する可能性があります。
難しいのは予算です。戦争を続けるには予算措置が必要で、議会の承認が要ります。民主党が支配する議会が本格的に始動するのは来年1月から。その議会では、戦争継続に必要な予算は通らなくなるでしょう。つまり、年内にかなり大規模な攻撃を行って決着をつけようとする可能性は十分にあります。
その場合は原油市場に影響が出ます。大規模攻撃の末に停戦となれば、瞬間的に原油価格が上がってその後落ち着くという展開もあり得ますが、こればかりは読みにくい。外交は行政側、ホワイトハウスでかなり決められ、議会が絡むのは予算措置くらいだと単純化して考えてよいでしょう。イラン問題は、とくに年内は要注意です。
06中国・ロシア・北朝鮮との「取引」
外交でもう一つ、日本に影響があるのが、トランプ大統領と中国・ロシア・北朝鮮との向き合い方です。レガシーを残したいという観点からすれば、これらの国と何らかの大きな取引を結びたがる可能性があります。そこでは日本の意向が無視されるかもしれません。
さらに怖いのは、トランプ氏以上にこれらの国の指導者が、完全に足元を見てくることです。惨敗してレームダック化したトランプ氏に、もはや配慮する必要はないと考えるからです。習近平氏もプーチン氏も、自国の達成したいことを最優先で進めてくるでしょう。
07実例 JTのロシア事業の接収
一例を挙げます。中間選挙でトランプ惨敗が判明したすぐ後、ロシアのプーチン大統領は、日本のJTのロシア事業を事実上接収しました。
ロシアは今年の夏ごろから、スイスの食品大手ネスレなどヨーロッパ企業のロシア事業の接収を進めていました。そして中間選挙が終わった直後に、日本企業であるJTに手をつけた。JTはロシアのタバコ市場で35%のシェアを占める最大手でしたから、狙われても仕方がない面はあります。しかし、トランプ氏はもうレームダックであり、日米関係に配慮する必要はない ― そう判断してすぐ動いた可能性は十分にあると思います。
08日本が無視されないために
トランプ大統領は中国・ロシア・北朝鮮と、おそらく何らかの歴史的な取引を結びたがる。そこで日本の意向は無視される。しかもトランプ氏以上に、これらの国がレームダックを見越して好き勝手に動く。そうなると、日本は本当に無視された存在になりかねません。
外交ではイランが最も怖い。しかし独裁者たちとトランプ氏がどう向き合うかも重要です。習近平氏とは年内にまだ2回会う予定があります。そこで日本に不利な取引がなされないよう、とにかく情報を収集し、政府には頑張って動いてもらう必要があると思っています。
※内容は動画収録時点(2026年11月)の情報と説明に基づく見解であり、投資の勧誘や助言を目的とするものではありません。最新の情報は政府・関係機関が公表する内容をご確認ください。
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岸 博幸慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授/経済評論家・コメンテーター