概算要求143兆円は「積極財政」なのか|岸 博幸
動画2026.09.12
概算要求143兆円は「積極財政」なのか
予算は実額ではなく、GDP比で見る。
8月末に各省庁の概算要求が出そろい、合計143兆円という数字をもとに、高市政権の積極財政への批判が続いています。しかし、その国の財政が積極的かどうかを判断する国際的な基準は、実額ではなくGDP比です。この物差しで来年度予算を過去の政権と比べると、見え方は大きく変わります。
本動画のポイント
- 各国の財政が積極的かどうかは、予算の実額ではなくGDP比で見るのが国際的な基準です。
- 概算要求143兆円がそのまま認められても、来年度予算のGDP比は約20%にとどまります。
- 石破政権は19.9%、岸田政権は19.7%。過去の政権とほとんど変わらない水準です。
- 日本の予算のGDP比は、2000年代以降おおむね18〜19%台で推移してきました。
- 実額の増加も約10兆円。財務省の査定前であり、補正予算を組まない方針も示されています。
- 潜在成長率0.4%という現実と日銀の利上げを踏まえれば、財政出動の後押しはむしろ必要です。
01概算要求143兆円をめぐる批判
高市政権の積極財政に対して、マスメディアや評論家の批判が厳しさを増しています。とりわけ8月末、各省庁の来年度予算に対する要求、いわゆる概算要求の合計が143兆円と判明してからは、その傾向が強まりました。こんな積極財政を続ければ金利が上がって大変なことになる、という論調です。
しかし私は、この批判は的外れだと考えています。そもそも、143兆円という実額を見て積極財政かどうかを判断すること自体に意味がないからです。
02予算が「積極的」かどうかは、GDP比で見る
グローバルな経済の世界では、各国の財政が積極的かどうかを見るとき、予算の実額ではなく、その国の経済規模であるGDPで割った比率、すなわちGDP比で見るのが当たり前です。
実際、EUが加盟国の財政比率が守られているかどうかを確認する際も、予算額のGDPに対する比率で監視をしています。国によって経済規模が違う以上、実額どうしを比べても意味がないからです。
積極財政かどうかを見るのは、予算のGDP比です。
03来年度予算のGDP比は、約20%
では、GDP比で考えたとき、日本の来年度予算はどうなるのか。概算要求額の合計143兆円は当然これから財務省の査定が入りますが、仮にこれがそのまま認められたとしましょう。来年度のGDPが今の名目成長率のまま増えると仮定すれば、GDP比はおよそ20%になります。
問題は、この20%という数字が、はたして突出して大きいのかどうかです。
04石破政権19.9%、岸田政権19.7%との比較
比較してみます。2025年度、石破政権の当初予算に補正予算を加えた予算額のGDPに対する比率は19.9%でした。その前年、2024年度の岸田政権も19.7%です。石破氏も岸田氏も、どちらかといえば財務省に近い立場とされてきた総理です。
それと比べて20%という数字は、ほとんど変わりません。さらにさかのぼれば、日本の予算のGDP比は2000年代以降おおむね18%から19%台、とくにこの10年ほどは19%台で推移してきました。コロナ禍の期間だけ財政出動が増えて跳ね上がりましたが、それを除けば、概算要求段階でGDP比20%という水準は、大きくもなんともないのです。
05実額で見ても、突出して大きいとは言えない
ついでに実額でも見てみます。2025年度、石破政権の当初予算は115兆円、補正予算は18兆円で、合計133兆円でした。143兆円は確かに10兆円多いように見えます。
しかし、これはこれから財務省の査定が入って減っていく数字です。加えて高市政権は補正予算を組まない方針を示しています。そう考えれば、実額で見てもそこまで大きいとは言えません。新規の国債発行額についても、片山財務大臣は来年度40兆円以内にすると述べています。2025年度の国債発行額も40兆円近い水準でしたから、ここもほとんど変わらないのです。
06それでも財政出動が必要な理由
もう一つ、財政出動はある程度しっかりやらなければならない、という現実も考える必要があります。
いまの日本の景気を見ると、4月から6月の経済成長率は年率で1.4%でした。これでも決して高くはありませんが、より深刻なのは潜在成長率です。政府が財政出動などをしなくても自然体で実現できる成長率は、現状ではわずか0.4%にとどまります。この水準のままでは景気は厳しくなり、低所得層の生活はさらに苦しくなります。
だからこそ、少なくとも前年と比べて遜色のない財政出動は続けなければなりません。とくに日銀は9月、そしておそらく12月も含めて金利を上げ、経済を冷やしも熱しもしない中立金利へ持っていこうとするはずです。これは円安是正の観点からも必要な動きですが、金利が上がれば景気には下押し圧力がかかります。その分、財政による後押しの必要性はむしろ高まります。
07経済の問題は、客観的に冷静に
結論を申し上げます。積極財政かどうかを見る物差しは、予算のGDP比です。その物差しで見れば、高市政権は積極財政でもなんでもなく、ある意味でノーマルな経済運営をしているにすぎません。
にもかかわらず、「積極財政」という言葉と、査定前の概算要求143兆円という数字だけをもって、左右を問わず新聞各紙が社説で批判している。これは適切な議論とは言えません。経済の問題は、思い込みや実額だけで語るのではなく、客観的に、冷静に捉える必要があります。その物差しを持っておくことが、報道を読み解くうえでも大切だと考えています。
※概算要求は財務省の査定が入る前の数字です。予算額や金融政策に関する記述は、動画収録時点(2026年9月)の説明に基づきます。今後の予算編成や金融政策の動向によって内容は変わり得ますので、実際のご判断にあたっては政府・日本銀行などが公表する最新の情報をご確認ください。
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岸 博幸慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授/経済評論家・コメンテーター